

片岡 いい風が吹いていますね。心がほっとする場所です。今から5,000年から4,000年前、エジプトのピラミッドの時代に、ここ三内丸山にも今日と同じ風が吹いていたのでしょう。緑が豊かで、のどかで、とても気持ちがいい。ここで人々がどんな風に暮らしていたのかを想像すると、時間が過ぎるのを忘れますね。
ここ三内丸山は、当時は海が間近まで迫り、わき水も豊富で暮らしやすい土地だったと思います。

片岡 クリの木を数多く植えて、安定した実りを得ていたことには驚かされました。
縄文の人々は、自然と共に暮らし、自然の恵みを利用するための知恵と工夫、そして自然への感謝がありました。だからこそ、この土地で長い間暮らすことが出来たのでしょう。
片岡 我々はその知恵を受け継いでいるはずですよね。人間は自然のなかで生かされている。縄文人は、そんな謙虚な気持ちを忘れずに、人間としての分をわきまえて暮らしていた。彼らのように大地に根ざし、自然と調和した素朴な生き方にはあこがれます。ロハス・環境という言葉の前に、縄文から学ぶべきことは多い気がします。
実は、私は毎朝ナッツ類を食べています。クルミなんかはとてもおいしいですね。割るとハート形をしていますが、形を見るのも楽しみです。クルミのおいしさは、縄文人の方がよく知っていたと思います。
縄文人は魚もよく食べたようです。三内丸山では、1mのマダイの骨や70cmのヒラメの骨も出土しています。


片岡 ムラから海へと続いていた道を歩きましたが、道の両側に大人の墓が並んでいるんですね。先人達によって生かされている、先人が守っていてくれているという思いが伝わってきます。また、子どもの墓は住居の近くにあり、そこからは家族の結びつきの強さが感じられました。縄文人は先人とのつながり、家族とのつながりを特に大切にしていたようですし、現代の我々が失ってしまった“心のゆとり”があったのではないかと思います。この感性はここに来なければ分からないですね。
三内丸山の発見は、従来の縄文のイメージを覆しました。縄文時代1万年間は停滞ではなく、安定・成熟した社会だったと言えます。家族や隣人を敬い、人々が支え合って生きていたのでしょう。

片岡 縄文の器はたまりませんねー。いいですねー。屈託のない形で、シンプルな中に美しさがあります。縄文の人たちの暮らしも、シンプルな暮らしだったと思います。やはり人間は、シンプルな方がいいですね。シンプルな生き方には、憂いがありません。
私は青森の人々の中に、縄文らしさを感じます。シンプルで素直で、嘘がない。自分の信じる道を迷いなく行く。私の好きな棟方志功は版画しかなく、それしか見ず、真っ正直に進んだ。ボクシングの畑山チャンプもそう。16歳で上京し、シンプルに自分の道を突き詰めていった。私はシンプルな感性や生き方に、とてもあこがれますね。
確かに青森には、今でも縄文の伝統が感じられますね。
片岡 縄文人の暮らしは、自然の摂理の中にあり、自然の一部と言えそうです。少し乱暴に言うと、弥生の頃から、人類は自然を支配するようになった。シンプルな縄文時代にかえらないと、これから人間は生きていけないのではないでしょうか。
現代人の「自然を守ろう」という言葉は、縄文人からすれば、非常に思い上がった考えに響くかもしれませんね。
●かたおか・つるたろう/1954年東京都生まれ。高校卒業と同時に片岡鶴八に師事。バラエティーやドラマ、映画で活躍。40歳から墨彩画を始め、全国で多数の個展を実施。
●おかだ・やすひろ/1957年青森県生まれ。弘前大学教育学部卒業後、青森県埋蔵文化財調査センターに勤務し、青森県内の遺跡調査に従事。92年から三内丸山遺跡の調査を担当。元文化庁文化財調査官。
エッセイ「縄文遊々学」を執筆中。