

2008年10月31日
縄文の食卓にも登場していた!?縄文時代の食卓に上っていたとされる食料のうち、自分が真っ先に思い浮かぶのは、ギャートルズ的な骨付き肉ではなく木の実。もっとも、縄文時代の食料に対するイメージとして、頭に浮かびやすいのは前者かもしれないが。
一方、時は流れて現代の食卓。ここに木の実が登場するシーンを思い浮かべると、主食じゃなければごはんのおかずでもなく(ただ、青森には「白和え」にくるみを加えたり、茹でた菊の花とくるみを和える料理はあるが)、ケーキやクッキーに用いる製菓材料としてのイメージが強い。
食べるシーンは違っても、数千年前と今とを結ぶ食材である木の実。ということもあってか、「もしかすると、遺伝子レベルの記憶なのかもしれない。」という具合に、木の実をふんだんに使ったお菓子が恋しくなるときがある。
青森市内から約100キロ離れたところにある、青森県三戸郡三戸町。あたり一面を山に囲まれたこの盆地の中を南に向かって車で走っていると、黄色と緑色の模様に「きんか堂」と書かれた庇が目に飛び込んでくる。
「あら、いらっしゃい」
出迎えてくれたのは、まるで自分のおばぁちゃんと会ったかのような親しみのあるトミエおばぁちゃんの声。御年84歳、とびっきりの笑顔とハリのある声には、年齢のイメージなんてこれっぽちも感じさせない活力がみなぎっている。
そんなお店の名物こそが、南部地方の郷土菓子である「きんか餅」。これは、お盆の際に神棚に供えられるお餅で、田んぼが少なく畑が多い南部地方ならではの一品。
お餅の中に入るのは小豆の餡子ではなく、くるみや味噌、そして黒砂糖といったもので出来た特製のあん。「ただ単に、甘いというのはあんまりねぇ…」と話すトミエおばぁちゃんは、自分の味を守り続けるために、色々なところにこだわりを持つ。なので、どうしても気になってしまった「味の秘訣」を伺ったものの、「企業秘密だよ」という、茶目っ気たっぷりの一言。

おばぁちゃんの手で丁寧にこねられた生地の触れ心地は、まるで赤ちゃんの耳たぶのようにやわらかい。どうしてもお餅に触れていると、熱で手にべとついてしまうので、素手で触ることには多少の抵抗を持ってしまいがちだが、これはずっと触れていてもまったく問題がない。
おもむろにこれをガブっと頬張ると、滑らかな表面から粉の質感が残る生地の旨さと弾力、そして、とろりとあふれ出す餡。黒砂糖の丸くコクのある甘さが、塩味で引き出された濃厚な味。ここに、クルミの食感とコクがアクセントになっている。
素朴でシンプル。飾り気のない味にはこだわりが一杯。そして、何よりも愛情がいっぱい。

30年近く、きんか餅を作り続けているハツエおばぁちゃんの手は、すべすべでふわふわ。そして、驚きを持ってしまうほどにやわらかい。触れていると尊敬の念を起こさせてくれる。
この手の温もりが宿ったお餅は、母性愛や家族愛といった色々な愛を遺伝子レベルの本能に教えてくれる。
だから、何度でも食べたくなる。遠い時代の食卓に対する片思いと共に。


※仕込みの状況によって開店時間は変わります。
※メニューは一例です。