

2008年10月10日
南部地方は七戸町にある「二ツ森貝塚」。ここに行く前あるいは行った後には、あることで覚悟をしなければならない。それは、貝塚の周辺にはお店らしいお店がなく、空腹対策を施すことができないのだ。繁華街まで約10キロという距離があるだけに、これは実に悩ましい。
そこで、自分は七戸にある一軒のお店に立ち寄ることにした。
車を走らせて向かったお店の名は、「松雪庵(しょうせつあん)」。暖簾をくぐり、靴を脱いでお店に入ると、一面ヒバ材で包まれた空間が目の前に広がる。
そんなお店の名物は「イカそば」と「菊そば」という二種類のそば。かけそば、ざるそば、天ぷらそばといった具合に、そばの頭に付く単語は色々あるが、この組み合わせを聞いたのは初めて。ただ、さすがに両方食べるというのは、なんとなく無粋な感があったので、この日は菊そばを注文。
出てくるまでの時間、熱々のそば茶を口にしながらヒバ材に包まれた空間に身を置く。今でこそ、その香りは弱くなってしまっているものの、当時はこうだったんだろうなぁという願望にも似た思いが、不思議なほどに鮮明に思い浮かぶ。
そして、目の前に一杯の器が運ばれてきた。

黄色と白の鮮やかなコントラストに目を奪われる。
「よくかき混ぜて食べてね」ということで、器の底からしっかりとかき混ぜる。あとは、太めのそばと一緒に地の恵みを、ズズズ、ズズ、ズズズズ…と思い切りすするだけ。
県産のそば粉で打った、二八そばの弾力と口当たりを兼ね備えた食感。ここに、地菊のコリコリとした音が、心地よいアクセントとして加わる。
菊そのものが強い味を持っている食材ではないので、そばの風味を損なうことなく、唯一無比の存在として器に大輪の花を咲かせている。そして、そんな余韻をピリっとした大根おろしの刺激がしっかり〆る。
ところで、どうしてこのお店は、この二品を提供しているのだろうか。それは、八戸で上がった朝イカが七戸の市場に届いていた、賑わいの記憶を残したいというご主人の心意気から始まった。
元々、おそば屋さんだったわけではなく、東京で勤め人時代だったころに食べたそばの味に、少なからずショックを受けてしまったご主人。そんなご主人が、諸々あってUターンした際に思い浮かんだのが、「地元でそばを打ち、地元の食材や文化を宿らせたものを提供したい」という気持ち。それが今、形となって結実している。もちろん、今回の菊そばも同じ気持ちから生まれたメニュー。
だからこそ、そばを打つ際に欠かせない水にもこだわりが。地元の造り酒屋が使っていた伏流水と同じ水を使っているとのことで、実はこれも東京の水を飲んだときの経験から至る話。
考えてみると、これこそが郷土の味。
郷土のそば粉、郷土の水、郷土の具材を食べるというありがたき幸せを、そばという土台で展開し続けるご主人の姿。そして、そんなご主人を支える奥様とやりとりしている姿は、仕事仲間という緊張感と、夫婦という信頼感が混ざった、なんとも微笑ましい光景だった。

※メニューは一例です。